「会計不正調査報告書を読む」Profession Journal誌に寄稿しました。

 毎月連載させていただいているProfession Journal誌の「会計不正調査報告書を読む」の連載第115回が公開されました。今回は,アジア開発キャピタル株式会社の特別調査委員会による調査報告書をとりあげています。もともと,同社は「第三者委員会を設置」するというリリースを出して程なく,「第三者委員会を解散して,特別調査委員会を設置」すると方針を転換。その最中に会計監査人が退任したり,東京地方裁判所からホームページに記載したリリースの一部を削除するように仮処分が出されたりと,何かと適時開示を出しており,注目していたところでした。

 そこで,6月21日に公表されたばかりの調査報告書をさっそく読んでみました。

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 嫌疑の対象となった蓄電池の売買取引について,特別調査委員会は「架空取引」であり,「資金循環取引」であったと認定を行います。当然,売上高と売上原価をそれぞれ取消し,その差額についてのみ収益人として認識すべきであるという,過年度の決算訂正が必要であると結論づけ,会社も調査報告書受領から1週間ほどで,過年度決算の修正をリリースしました。

 報告書を読んで気になったのは,資金循環取引を主導した元代表取締役社長と元取締役の二人の「動機」に言及がなかったことでした。売上高が低迷し,赤字決算が続いていたアジア開発キャピタルは,2016年1月に,元衆議院議員の肩書を有する網屋信介氏を代表取締役社長として招聘します。その後,質屋事業,古物買取販売事業を中核事業にしようとして子会社化した株式会社トレードセブンを舞台に,資金循環取引が繰り返されています。決算修正の結果,2019年3月期の売上高は1,630百万円から517百万円へと68.2%のマイナスとなるなど,売上高は大きく減少しました。この数字だけを見れば,元代表取締役社長と元取締役のおふたりは,とにかく連結売上高を増加させようとして,資金循環取引に傾注していったようにも思えます。ところが,調査報告書の公表を同じ日に,アジア開発キャピタルが公表した「補足」のリリースでは,この両者は,資金循環取引に絡んで,経済的な利益を得ていることが指摘されています。なお,この「補足」については,特別調査委員会安事実認定を行ったものではなく,あくまで,アジア開発キャピタルによる社内調査の結果ということです。

 本件,調査報告書を読んでも,事件の全容はわからず,今後,アジア開発キャピタルと元取締役2名との間で,法廷闘争が続くものと思われますが,引き続き,事態の推移を追いかけたいと思います。