毎月連載させていただいている,Profession Journal誌「会計不正調査報告書を読む」連載第93回が先週,公開されました。
事案として少し古いのですが(公表は2月1日付),架空循環取引案件ということ,証券取引等監視委員会が10月に公表した「開示検査事例集」にも事例として掲載されていたことなどから,今回,とりあげました。
RS Technologies社代表取締役は,売上拡大を図るため,創業時の出資者で,創業期の同社を支えたA社社長に,商談を持ちかけ,中国から原材料(ダイヤモンドパウダー)を仕入れて国内の会社に販売する一連の商流に参加します。これが,「外部からの指摘」によって,架空取引であったことが発覚して,売上の計上取消とすでに支払い済みの仕入代金について貸倒引当金の設定を行うという,過年度決算の修正を行う羽目になったというのが,事案の顛末です。
「開示検査事例集」の事例1から事例3までがすべて,架空循環取引(証券取引等監視委員会の用語では,「架空取引(資金循環取引)」)であり,しかも,3つの事例ともに,仕入先と販売先の代表者が同一人物だったことが判明しています。
また,本事案でも,監査法人は,売上の計上について,同社が負担すべき瑕疵担保責任,在庫リスク,信用リスクを負っていないなどの点から,会計基準に照らして,取引金額を純額(ネット)処理とするのが適当ではないかという指摘を行ってはいるものの,それ以上の「実在性の確認」は行われなかったようです。
こうした状況について,証券取引等監視委員会は,「開示検査事例集」の「監視委コラム」の中で,以下のように批判しています。
会計監査人の監査手続も,取引先からの証票類や売掛金の入金に着目した対応に止まっていました。取引量の拡大等に伴って,会計監査人が売上計上をグロスからネットに変更するよう指摘した事例もありましたが,商品の実在性の確認は疎かになっていました。
商品,商流の実在性確認は,国境を越えた取引,EC取引が主流になる中で難しくなっていることは推察できますが,それを逆手にとって,不正な売上計上が横行しているのであれば,由々しき事態であると言えます。
「開示検査事例集」については,こちらもお読みください。
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