「会計不正調査報告書を読む」Profession Journal誌に寄稿しました。

 このところ寄稿した記事の公開が続いているweb情報誌Profession Journal10月13日公開号に,「会計不正調査報告書を読む」連載第131回が掲載されました。今回は,海外プロジェクトを中心とした架空取引事件が発覚した老舗機械商社の東京産業株式会社が設置した特別調査委員会調査報告書をとりあげました。

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 首謀者であるX氏は,2009年4月に入社。報告書の社内経歴部分が黒塗りになっているので,新卒で入社したのか中途採用かはわかりませんが,仮に,新卒だったとすれば,年齢は35~36歳くらいになります。調査委員会設置前に,東京産業が2022年3月期決算で取り消した売上高が1,166百万円と公表されていることから,X氏はこの金額以上の売上実績を上げていたわけで,「やり手の営業マン」という評価であったことが推察されます。ところが,実際には,多くの商談は架空であり,しかも,東京産業が支払った仕入れ代金の一部はX氏とその配偶者の預金口座に流出していたことが判明します。

 発覚の経緯は,東京国税局による税務調査でした。毎度のことですが,内部監査も会計監査も架空取引を見抜くことはできず,東京産業としては新規進出分野である海外インフラ事業は聖域化していました。そして,内部通報制度は,おそらく形式だけは整っていたものの,実効性はなく,通報件数が制度開始以来0件,調査委員会が情報提供窓口にも,1件も情報は寄せられなかったとのことです。

 調査委員会による再発防止策には,お決まりの「風通しのいい組織風土の醸成」や「内部通報制度の見直し・周知」といった文言は見当たりません。しかし,個人的には,東京産業においては,内部通報制度が機能しづらい組織風土が存在するのではないかという推察が成り立つのではないかと考えます。であるとすれば,再発防止策には,「なぜ,内部通報窓口が機能しなかったのか」を検討したうえで,同社の「内部通報に関する内部規定」の運用を実効性のあるものにすることが必要であることを付け加えるべきなのではないかと考えた次第です。

 順調に売上実績を伸ばしている社員を疑うことは難しいかもしれませんが,内部監査人と会計監査人が「職業的懐疑心」を発揮して,不正の端緒を見つけることができなかったのかと,少し残念な思いで原稿をまとめました。

 ぜひ,ご一読ください。