「会計不正調査報告書を読む」Profession Journal誌に寄稿しました。

 月に一度,寄稿させていただいているProfession Journal誌の「会計不正調査報告書を読む」連載第102回が,昨日,公開されました。今回は,ベトナム現地法人の贈賄事件で揺れる天馬株式会社の第三者委員会調査報告書がテーマです。2019年8月,ベトナム税務当局の調査で多額の追徴課税を通告された現地法人の担当者は,税務調査チームのリーダーから賄賂の提供をほのめかされ,親会社の経営画部長の承認のもと,日本円にして約1,500万円の「調整金」を現金で支払います。経営企画部長が社長の承認なしに判断した理由は,2017年にもベトナム現地法人は税関による調査を受け,その際には,社長から日本円にして1,000万円の調整金支払うことの承認を得ていたため,今回の同様の手段をとったものでした。

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 このベトナムにおける贈賄事件が取締役会に報告されてから,天馬経営陣は,創業家である「司家」と「金田家」の対立を背景に,揺れに揺れます。最終的に決着するのは,2020年6月26日開催の定時株主総会による取締役の選任議案の決議です。取締役会で多数派を占める「金田家」が主導したと見られる会社側提案の取締役候補者のうち,監査等委員会が「適任ではない」と意見をつけていた3人の選任が否決され,「司家」から株主提案として提出された取締役選任議案に名前を連ねた硬派者は,全員が否決されました。いわば痛み分けといった格好ではありますが,結果的には,創業家出身の取締役は不在となりました。

 天馬では,今後,創業家による経営支配が弱まることが予想されますが,取締役会と監査等委員会の対立,ベトナムの贈賄事件の刑事訴追の行方など,問題は山積しているように思われます。

 2014年3月に発覚した,日本交通技術社によるインドネシアベトナムウズベキスタンの3ヶ国における贈賄事件では,不正競争防止法違反容疑で起訴された代表取締役以下計3人の取締役に実刑判決が言い渡されています(東京地裁平成27年2月4日判決)。その後,日本交通技術社は,海外事業から撤退しています。この事件を教訓とすることができていれば,天馬経営陣の対応は自ずと違ったものになっていたのではないかと考えるのですが。