「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション」について。

 6月11日,国税庁のサイトに「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション-税務行政の将来像2.0-」とリリースが出されましたので,さっそく読んでみました。

www.nta.go.jp

 まずは前文です。

経済社会や技術環境は目まぐるしく変化しています。そうした変化に柔軟に対応し、「納税者の自発的な納税義務の履行を適正かつ円滑に実現する」という国税庁の使命を的確に果たしていくためには、スピード感をもって取組を進めることが重要です。

 まったくその通りかと思います。で,本文を読み進めました。

 全般を通じてとても気になったのは,国税庁国税局/税務署職員の意識変革に関する項目がないことです。かろうじて,26ページにシステムの高度化に伴う「人材育成」というのがありましたが,これはあくまでも,データ分析ができる人材を「データリテラシーのレベル」に応じて階層化するもののようでした。

 筆者が期待していたのは。たとえば,

・税務署からの連絡手段として「電話」だけに頼らないで,e-mailを活用する

 → そのために税務署職員に対して,必要なICT機器を準備し,かつ,研修を行う

といったようなことや,

・税務署職員が,e-Taxシステムに習熟し,e-Tax利用者の問合せがヘルプデスクや税務署担当者などの間で,たらい回しにならないようにする

というような項目を期待していたのですが,e-mailについてはまったく触れられていませんでした。一方,web会議やリモート調査について,昨年7月から大規模法人を対象に行っているという記述があり(22ページ),少し驚いたのですが,これは大規模法人ではなく,税理士事務所を中心に拡大すべきでした(もちろん,対応が可能な税理士に限られますが)。

 個人的には,税務署からの連絡や問い合わせが「電話」でしか来ないのが最も不満ですので,e-Taxシステムのメッセージ機能を拡充して,申告・申請内容に関する照会を税務署がメッセージとして送信する――この機能は19ページの説明では実現しそうです――とともに(これは転送機能によりe-mailに届きます),照会事項に関する回答をメッセージに対する「返信」として送ることができれば,かなりのストレス解消になるのではないかと思います。

 リリースの中で興味を持ったのが,e-Tax利用率の推移(18ページ)です。

 令和1年度で,法人税は87.1%,所得税が59.9%となっています。法人税の申告は,おそらくは税務ソフトベンダーのシステムから,e-Taxシステムに送信されたものが過半を占めると思います(弊事務所もそうしておりますし,e-Tax法人税の申告書を作成・送信した経験がある人なら,「二度と使いたくない」と思うはずですから)。それに引き換え,個人所得税の伸び悩みは深刻ですね。弊事務所では,所得税の申告は,e-Taxの「確定申告書作成コーナー」に全面的に依存しており,その使い勝手も年々進歩していると評価しているのですが,どうも世間の評価とは異なるようです。スマートフォンを使えるようにしたり,申告の簡素化を進めたりと,利用率向上に向けた取り組みなされているようなのですし,令和2年度は新型コロナウイルス感染症の影響もあって「税務署に行かない納税者」が増えましたので,利用率はさらに上がっているかとは思います。とはいえ,法人税申告並みとはいかないまでも,80%程度まで利用率を引き上げないと,「課税・徴収の効率化・高度化」にはつながらないのではないかと考えます。

 国税庁国税局/税務署が,納税者の視点に立って,デジタル・トランスフォーメーションに取り組むことは大いに評価しますが,まずは,「税務調査の事前通知」を電話だけではなく,e-mailまたはe-Taxのメッセージ機能を利用して並行で行えるように,手続通達の改正をしてほしいものだと思いました。