「租税争訟レポート」Profession Journal誌に寄稿しました。

 隔月で寄稿させていただいている「租税争訟レポート」の連載第52回が,本日,Profession Journal誌で公開されました。テーマは,「課税仕入れを行った日」の期間帰属を争点とした税務訴訟です。

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 約1週間の課税期間のうちに少量の金地金を売買して課税売上を計上,課税売上割合を100%としたうえで,多額の課税仕入れを行って,消費税の還付を受ける――金地金スキームというらしいのですが――という行為が,裁判所によって,否認された事案で

す。消費税基本通達には,こういう規定があります。

消費税法基本通達9-1-13(固定資産の譲渡の時期)

固定資産の譲渡の時期は、別に定めるものを除き、その引渡しがあった日とする。ただし、その固定資産が土地、建物その他これらに類する資産である場合において、事業者が当該固定資産の譲渡に関する契約の効力発生の日を資産の譲渡の時期としているときは、これを認める。

 本件の納税者は,このただし書きを利用して,契約締結日に課税仕入れを行ったものとして,消費是の確定申告を行いました。時系列にまとめておきます。

平成25年4月25日:原告と売主との間で、不動産(土地と建物)売買契約を締結し,原告が手付金を支払う。
平成25年4月30日:原告の課税期間終了。原告は,借方「建物」貸方「未払金」という仕訳を計上。
平成25年5月30日:原告が残金6億9,000万円を支払い,不動産の所有権移転登記。

 裁判所は,「課税仕入れを行った日」とは,事業者が事業として他の者から資産を譲り受けた場合における当該課税資産の譲渡等に係る権利又は債務が確定するに至った状態が生じた日を指すものと解すべきであり,本件通達ただし書にいう「契約の効力発生の日」に課税資産の譲渡等に係る権利又は債務が確定するに至った状態が生じていなければ,当該日を「課税仕入れを行った日」とする前提を欠くことになり,「契約の効力発生の日」には,課税資産の譲渡等に係る権利又は債務が確定するに至った状態が生じていなければならないとして,原告の主張を斥けました。

 判決を読み,平成25年4月30日に代金決済が行われて登記申請が完了していたら,このスキームが成就していたのではないかと,ふと思った次第です。

 他にも,確定申告に税理士が関与している場合における「信義則違反」や「正当な理由」に対する納税者側の主張に対する裁判所の考え方も,なかなかに興味深く(税理士としては厳しいのですが),ぜひ,ご一読いただければと思います。