書評:八田進二著「第三者委員会」の欺瞞

 青山学院大学名誉教授で,日本における会計監査制度の大御所,会計不正業界(そんなものがあれば,ですが)の重鎮などなど,いくつ肩書を並べても書き尽くせない業績をお持ちの八田進二先生がの新刊を拝読しました。「欺瞞」というタイトルといい,「不祥事の呆れた後始末」というサブタイトルといい,刺激的な言辞が並びます。

 読み始めて最初に感じたのは「文章の平易さ」でした。新書ですので,学術書とは読者層が違うことから,こうした文体になっているのかと思っておりましたところ,「あとがき」で,八田先生自ら,「信頼するライターの南山武志氏の全面的な協力を得ることができた」と書かれているように, 読みやすさの理由はこの辺りにあったのかと,納得した次第です。

  文章は読みやすいですが,内容が辛口であるところは,いつもどおり。八田先生の真骨頂と言ってもいいでしょう。なにしろ,「はじめに」ですでにこう述べて,「大半の第三者委員会」を批判しています。

大半の第三者委員会は,真相究明どころか,不祥事への関与を疑われた人たちが,その追及をかわし,身の潔白を「証明」するための“禊のツール”として機能している――。それが私の結論である。何のことはない,調査中はメディアや世論などの追及から逃れる“隠れ蓑”となり,世のほとぼりも冷めかけた頃に,「問題ありませんでした」という“免罪符”を発給しているのだ。

 また,東芝による粉飾決算事件では,「不適切な会計処理」という新語を使用していることを痛烈に瀕しています。今ではすっかり調査報告書でおなじみとなった「不適切」という用語ですが,八田先生に言わせると次のとおりとなります。

会計の世界では,エラーであろうが,意図的なものであろうが,法に問われようが問われまいが,事実と異なる財務情報,会計情報を公にしたら,それはもう「不正」なのである。

 さらに繰り返し批判的に言及されているのが,第三者委員会による調査に係る報酬が開示されないことです。八田先生は会計監査制度との比較で,次のように述べています。

監査に際して,対象の企業からいくらの支払いがあったのかという情報が,ステークホルダーの目にさらされているというのは,透明性が高まり不信感の払拭になり得る。そうやって,監査の「独立性」と「透明性」を確保し,結果として,監査に対する信頼性を高めているのだ。
主として弁護士がかかわる第三者委員会に関しては,残念ながら,そこがグレーゾーンとして放置されたままである。

 株主をはじめとるすステークホルダーにとっても,第三者委員会による調査費用がいくらであったかは非常に興味のあるところでしょうが,残念ながら,ほとんどの事案ではその金額は非開示であり,そのことがかえって妙な憶測を呼んでいる面もあるように思います。費用の開示が株主代表訴訟などの訴訟リスクを伴うことは否定できないでしょうが,第三者委員会のみなさんが,費用に見合った調査を行っていることを立証すべきなのは言うまでもないことであり,この点は,八田先生の意見に大きく同意するものです。

 本書は,第三者委員会による調査,再発防止策の提言という日本独自の不祥事発生時のスキームに鋭く切り込みつつ,主に会計監査制度との比較から,第三者委員会による調査をさらに実効性のあるものにする提言をまとめたものであり,企業や組織の不祥事の防止に向けた取り組みを多角的に分析した力作であると思います。