「会計不正調査報告書を読む」Profession Journal誌に寄稿しました。

 月1回連載中のProfession Journal誌の「会計不正調査報告書を読む」連載第99回の記事が,昨日,公開されました。IT業界における架空循環取引が話題になっている同じころ,中古ゲーム機の取引を騙った架空取引に巻き込まれて,約1億4千万円の売掛債権の回収不能という被害を受けた株式会社共和コーポレーションの第三者委員会調査報告書を,今回はとりあげました。

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 共和コーポレーション社は長野に本店のあるアミューズメント施設(ゲームセンター,バッティングセンター,ボーリング場)などを運営する会社で,本業とともにゲーム機器の販売取引にも力を入れていたようです。舞台となったのは東京支店。副支店長が手掛けてきた中古ゲーム機販売の取引先であった株式会社アーネスト(報告書では「A社」)が破産申立て準備中であることが判明して,売掛金142百万円が取立不能又は取立遅延のおそれが生じました。共和コーポレーション社は,この債権を回収するために情報収集を進めたところ,取引自体が架空であったことが判明して,第三者委員会に調査を委ねたのが2019年12月,年末も押し詰まったころでした。

 調査結果については,ぜひ,Profession Journal誌の記事をお読みいただきたいのですが,本件でも,売上実績を伸ばす東京支店副支店長の取引を不審に思った役員,社員は存在していたようです。ゲームセンターなどのアミューズメント業界はは厳しい経営環境にあったことは事実で,ゲームセンターの数が減少する中で,店舗閉鎖で多数の中古ゲーム機の買取案件が発生したとしても,それを購入する店舗が毎月あるとは考えられない――そんな常識的な考えを有する者の不審感にもかかわらず,取引は5年間継続し,その間の売上高は1,719百万円に達していました。

 本件は,ゲーム機器業界特有の商慣習をダミーにした架空循環取引でしたが,考えてみれば,IT業界にも特有の商慣習があって,ネットワンシステムズ社事件でもそれが利用された一面もありました。業界慣行だからといって,エンドユーザーや商流の一部が明らかにできないような取引には,「架空取引に巻き込まれる」リスクが潜在していることを改めて考えさせられました。