「会計不正調査報告書を読む」Profession Journal誌に寄稿しました。

 web情報誌Profession Journalで毎月連載させてもらっている「会計不正調査報告書を読む」連載第103回が,本日,公開されました。とりあげたのは株式会社ジェイホールディングスの第三者委員会調査報告書です。筆者は,このところ,上場持株会社における事業子会社の内部統制をどうするかという問題意識を強く持っており,本件も,そうした事例の一つではないかと思って報告書を読みましたが,内部統制を無効化する経営トップによる不正または不正の容認という結論で,上場持株会社による子会社のガバナンスという論点ではなく,なぜ,このような比較的単純な不正が見過ごされてしまったかを考えるテキストとなりました。

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 ジェイ社の子会社で,利益の大半を稼得している不動産事業を営む株式会社シナジーコンサルティングにおける売上計上の妥当性が,「外部の指摘」によって問題とされたことから,調査は開始されます。第三者委員会による調査の結果,シナジー社では代表取締役自ら,契約書類等を偽造または変造して,架空の仲介手数料を売上計上していることが判明します。しかも,シナジー社の取締役を兼務する,ジェイホールディングス社の代表取締役も,架空売上を追認し,あるいは,架空の売上を計上した売掛債権の回収資金の一部を提供していたことも,明らかになります。

 調査結果をもとに過年度の決算を修正した結果,ジェイ社は債務超過に陥っていることから,債務超過とそれに伴う上場廃止という事態を回避するために,架空売上の計上という手段をとったのではないかということは推察できますが,残念ながら,第三者委員会は,不正の動機について,明確に記述していません。

 調査報告書公表後,ジェイ社は,シナジー社を売却するとともに不動産事業からの撤退を発表しています。訂正前の2018年12月期有価証券報告書を基に計算すると,連結売上高の約86%を占める不動産事業から撤退したジェイ社が,猶予期間中に債務超過状態から脱することができるのか,今後も注視していきたいと考えています。