「会計不正調査報告書を読む」Profession Journal誌に寄稿しました。

 木曜日に公開されたProfession Jounal誌に「会計不正調査報告書を読む」連載第138回を寄稿しました。今回は,東京オリンピックを巡る贈収賄事件の渦中にある株式会社KADOKAWAが設置したガバナンス検証委員会調査報告書をとりあげました。お読みいただければわかるように大部の報告書ではありますが,同じ説明が頻出していますので,ある程度は読み飛ばせるかもしれません。

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 さて,角川歴彦さんは,どれくらい悪いのでしょうか?

 読み終わった後も,実は判然としません。もちろん,ワンマン経営で,周囲は異論を口にできず,歴彦さんに忖度をしていたということはよくわかります。でも,「忖度をされることが罪なのか?」という疑問に対する答えは,報告書にはなかったように思います。安倍元首相の回顧録にも同じような命題があるようですが,周囲が「勝手に忖度している」状況で,忖度されている側に,どのような責任が生じるのか。

 そんなことを考えたのは,ガバナンス検証委員会の委員長の重責を担われた中村弁護士には,スルガ銀行事件の調査報告で,報告に基づいて「懲戒解雇」とした執行役員による解雇無効の訴えで,調査報告書の事実認定がことごとく覆されて,会社側が敗訴したことがあったからかもしれません。たぶん,この事件は控訴されていると思いますので,その後,どうなるかはわかりませんが,外部の調査委員会が限られた時間とリソースのなかで調査した結果が,裁判所によって否定されるような事態が続けば,第三者委員会による調査がデファクト・スタンダードであるような現状は,否定されることになるかもしれません。

 もちろん,調査委員会による報告書を,何の疑いもなく,まっとうな調査が行われた結果に基づくものであると,信用してしまう私たちにも警鐘を鳴らすものであるのだろうと考えています。

 そんなわけで,スルガ銀行事件の調査報告書についても,リンクを張っておきます。

 お時間があれば,ご一読ください。

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「租税争訟レポート」をProfession Journal誌に寄稿しました。

 先週はさすがに少し忙しくて,記事をアップする時間がとれませんでした。

 あらためて,先週公開されたProfession Jornal誌に寄稿した「租税争訟レポート」のご報告です。ほぼ隔月掲載で,連載は第65回となりました。久しぶりの勝馬投票券の払戻金をめぐる所得税の所得区分が争点となった判決をとりあげました。的中した馬券の所得区分については,ご存じの方も多いと思いますが,最高裁判所による2件の判決と,それに伴って改正された所得税基本通達で,概ね取り扱いが決まっています。

 今回とりあげた判決は,外形的には,所得区分を雑所得とする要件が具備されているように思えるが,調査対象年分の中に,1年だけ「損失」が出てしまった年があったときに,所得区分はどうなるかが争点でした。

 第1審である東京地方裁判所は,調査対象年分(3年分)では利益が計上されていることなどを理由に,納税者の主張を認容して,雑所得であるとの判決を出します。しかし,控訴審では逆転。課税庁の言い分を認めて,一時所得という判断を示しました。

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 こじんてきには,控訴審の判断には疑問の余地が多いと思っています。

 納税者は,上告・上告受理の申し立てをしているとのことですので,最高裁判所がどのような判断を示すか,引き続き,注視したい事案です。

 

 

小田嶋隆さんを偲ぶ。

 昨年6月に小田嶋隆さんが亡くなってから,すでに半年が過ぎてしまいました。個人的には,2022年の最も大きなニュースであった小田嶋さんの死後,2冊目の著作が刊行されたので読んでみました。

 タイトルは『諦念後――男の老後の大問題』(亜紀書房)です。

 2018年から2019年にかけて雑誌に連載された原稿をまとめたものだということですが,自転車事故で骨折後,いくつかの病気が見つかって,死に至ってしまった小田嶋さんが,「老人」になることに抵抗し,足掻いている様子がよくわかります。

 小田嶋さんは私より4歳年長。現在はどうか知りませんが,私が高校生のころ,最も影響を受けたのは,自分より5歳くらい年長のOBの存在でした。ちょうど小田嶋さん世代です。あれから45年ほど。訃報に接する人の年齢が,どんどん自分に近づいてきている気がしてなりません。そう,高橋幸宏さんも亡くなりましたね。

 小田嶋さんがアルコール依存省から恢復されたことは有名な話です。もしかしたら,死因の一部には,そうした若いころのやんちゃさがあったのかもしれないですね。医療者でもない私にはわかりませんが。

 こんな話を書こうと思ったのは,この記事を読んだからです。

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 もう少し,小田嶋さんのコラムを読み続けたかったです。

「会計不正調査報告書を読む」Profession Journal誌に寄稿しました。

 今月2回目の寄稿になります。Profession Journal誌で連載をさせていただいている「会計不正調査報告書を読む」連載第137回は,年末に報告書が公表されて,「女性コンパニオンとの混浴」が一時話題となっていた株式会社TOKAIホールディングスの特別調査委員会による調査報告書をとりあげました。

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 報告書の一番の読みどころは,通商産業省(現:経済産業省)OBで長年,TOKAIホールディングスのトップに君臨してきた前社長を解職するために,社内取締役と社内監査役(要するに生え抜きの経営陣たちです)が画策するシーンです。企業を舞台にした小説を読むかのような緊迫感を,報告書はよく伝えていると思います。

 前社長の行為(ほとんどが私的費消を会社に払わせていたもの)はもちろん不正なものですし,「女性コンパニオンとの混浴」にしても品位を欠く行為であることは言うまでもありません。前社長が実力者であり,業績も新調させていることもあって,部下である社内取締役や社内監査役が何も言えなかったことは理解できるとしても,彼を諫める社外取締役や社外監査役がいなかったことが惜しまれます。社内取締役らも社外取締役らに不信の念を持っていた(前社長に情報が漏れるのではないかという疑念)ようで,コーポレート・ガバナンスが機能不全を起こしてしまった結果,クーデターのような社長解任劇につながってしまったのかもしれません。

 筆者は,「女性コンパニオンとの混浴」が報じられた記事を読んで,つい,バブルの頃の大蔵官僚に対する「ノーパンしゃぶしゃぶ接待」を思い出してしまいました。時代は平成を経て令和に代わっているというのに,男というものはあまり変わらないようです。もちろん,自戒をこめての感慨ですが。

「会計不正調査報告書を読む」Profession Journal誌に寄稿しました。

 昨日,今年最初の記事が公開されました。

 年明け最初の記事はここんところずっと同じテーマで,「2022年に置ける調査委員会設置状況」を第三者委員会ドットコムさんのサイトをもとに集計し,分析したものです。

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 2022年において、調査委員会の設置を公表した会社は57社ありました。

 この数字は,2021年の61社を下回っています。3月決算法人の会計監査が本格化する5月から調査委員会を設置するというリリースが増加傾向でしたが,秋以降,減少した感じです。57社のうち、複数の調査委員会設置を公表した会社が5社あったため、この結果、設置が公表された調査委員会の数は64となっています。ちなみに株式会社オウケイウェイヴは,年間で4つの調査委員会設置を公表しており,おそらくは新記録(?)ではないかと思われます。

 調査委員会の設置を公表した会社の会計監査人を分類したところ,いわゆる大手4監査法人の占有率が約56%と,最小になっていることがわかりました。帝国データバンクが昨年2月に公表した記事でも,「大手から中小へ」という監査法人の異動がトレンドになっているとの分析がありましたが,そうした影響があるのかもしれません。

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今年のお世話になりました。来年もよろしくお願いします。

 2022年も今日で終了です。

 今年の多くのみなさんにお世話になりました。たいへん,ありがとうございました。

 ブログのタイトルを見ても,「寄稿しました」ばかりで変わり映えしませんが,来年は少し,身辺雑記的な文章も書いてみたいなと思っています(備忘録ですね)。

 弊事務所は第一京浜沿いの建物に入居している関係で,新年は2日から出社しています。もちろん,沿道で,箱根に向かうランナーを応援するために,です。往路は1区で,みなさんまだまだ元気で,一団になって目の前を通り過ぎます。とても速いので,毎年,驚いています。来年といっても明後日ですが,また,一生懸命に走るランナーに声援を送るために,朝から出社予定です。ランナーのみなさんには陽射しはない方がいいのかもしれないですが,沿道で観戦する私たちには,陽射しの温かさは救いです。幸い天気予報は晴れ。楽しみです。

 それでは,よいお年をお迎えください。

「会計不正調査報告書を読む」Profession Journal誌に寄稿しました。

 毎月連載の「会計不正調査報告書を読む」第135回が,昨日公開のProfession Journal誌に掲載されました。常務取締役が,子会社社長だった時期の不正ということで,注目していた事案でしたが,報告書を読んでみると,「ゴルフ好きなおじさん」がちょっと羽目を外してしまったという感じで,いまどき,こんなおじさんがまだ生息しているんだなと変な関心をしてしまった報告書です。

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 「東海リース」という社名を聞くと,筆者のような古い人間は,今はもう名前が消えてしまった中部地方に本店があった金融機関の子会社であったり,資本が入っていたりするのではないかと考えてしまうのですが,沿革を読むと,まったく違う会社であることがわかります。

 大阪の本社から離れた香川県の子会社で,社長として派遣された親会社の取締役を兼務する眞榮田氏は,工場用地の造成時,敷地内になんとゴルフ練習場を作ってします。いくら土地が安い地域とはいえ,なかなか大胆ですが,この造成費用自体は従業員の福利厚生の意味合いもあって,会社が負担したようです。問題は,その後の維持管理だったのでしょう。社長以下3名の取締役と総務部長は,自分たちが設立した会社を取引に介在させて,10%程度のマージンを抜き,これを裏金として,ゴルフ練習場の維持管理費用に充てたり,個人的に費消したりすることになります。

 発覚の経緯は,報告書に明記されておらず,よくわからないのですが,子会社社員からの内部通報かもしれません。ゴルフに興味がない従業員が,工場敷地内にゴルフ練習場があるのを見れば,「何かおかしい」と思うのは当然でしょう。

 ともあれ,悪事は発覚し,取締役は全員が解任され,または辞任し,総務部長も処分されたようです。

 詳細は,ぜひ,記事全文をお読みください。