「公表裁決事例令和4年10月から12月分」の速報解説を寄稿しました。

 国税不服審判所が,6月21日に公開した「公表裁決事例令和4年10月から12月分」に関する速報解説記事が,昨日,web情報誌Profession Journalで公開されました。

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 四半期ごとに公表される裁決事例は,このところ5件以下という少なさだったのですが,今回は8件と久しぶりに多くなりました。とはいえ,年間の審査請求件数事績が2千件をはるかに超えるにもかかわらず,公表される裁決事例が20から30件というのは,いかにも少なく感じます。

 今回の公表裁決事例では,消費税法に関連する裁決が3件収録されていますが,10月から導入されるインボイス制度も含めて,今後,消費税に関連する審査請求事件が増加することも予想されることから,先例となるべき裁決の公表だけでなく,これまでの国税不服審判所の判断については,広く公表するよう,検討してほしいものです。

 なお,国税不服審判所のサイトはこちらです。

www.kfs.go.jp

「会計不正調査報告書を読む」Profession Journal誌に寄稿しました。

 web情報誌Profession Journal誌に毎月連載している「会計不正調査報告書を読む」連載第142回が,去る15日に公開されました。今回とりあげた報告書は,株式会社パスコが設置した特別調査委員会によるものです。

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 調査委員会設置のきっかけは,従業員からの内部通報だったということですが,もともとの通報内容は「長時間労働」や「残業」に関するものであったため,人事部門がヒアリングをしたところ,売上計上を先延ばしして利益を翌期に繰り越しているという証言が得られ,「粉飾決算」と記したエクセルシートのメモを作成して,人事担当の執行役員と当時の業務監査部長とで情報を共有し,人事担当執行役員は,業務監査部長に調査を指示していたものの,この証言は9か月以上も放置されることとなりました。調査委員会に対して当時の業務監査部長は証言を拒否したため,放置された原因は判明していません。

 また,パスコ社は,東京国税局による税務調査において,2020年3月末を契約納期限とする商談のうち,1,173件について,進捗状況が100%になっていないことについて,調査を命じられており,本来であれば,税務調査があった2020年11月の段階で,十分な社内調査を行い,利益の先送りを究明すべきであったと思われるのだが,パスコ経理部門は,現場から上がってきた虚偽の回答をそのまま東京国税局に伝えていました。問題は,東京国税局も,その回答を受け容れて,売上計上漏れとして否認するのではなく,指摘に止めたということかもしれません。

 特別調査委員会も何度も指摘していますが,パスコ社では,過去も不適切な経理処理が何度か発覚しており,そのたびに,再発防止策を策定し,実行してきました。ところが,今回の不適切な利益の先送りを防止することはできませんでした。その原因について,調査委員会は「本件の真因」として踏み込んだ分析をしています。

 ぜひ,ご一読ください。

「租税争訟レポート」をProfession Journal誌に寄稿しました。

 隔月で連載を続けているProfession Journal誌の「租税争訟レポート」最新記事が,昨日,公開されました。 

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 原告が依頼していた税理士法人の担当者が2年続けて申告期限内に申告書を送信しなかったことから,所轄税務署所長が「青色申告の承認取消処分」を行ったところ,これを不服として,国税不服審判所の棄却裁決を経て,訴訟を提起した事案です。

 驚いたのは,この税理士法人は,原告に対して,申告書送信日付を偽装して,期限内に申告が完了していたように装っていたことです。期限後の申告になってしまった事情はよく分かりませんが,6月決算法人なので,税理士の繁忙期であるとも思えず,原告から決算資料の提出が遅れたことが原因かもしれません。なお,原告の主張には,「申告期限の10日前には資料を渡していた」との文言がありました。送信自体は税理士法人の職員が行ったかもしれませんが,送信のためには税理士の署名を付与しなくてはならず,税理士法人に所属する税理士の一人は電子署名のための電子証明書(カード)を貸与しているはずですから,期限後申告の事実は気づいているのではないかと思うのですが。職員が勝手にカードを使用できる体制であったとしたら,内部統制上はきわめて脆弱であったということになります。

 裁判所は,原告による,税理士法人の職員が期限後に申告をしたものであり,原告には帰責性がないから青色申告承認取消処分は,裁量権の範囲を逸脱しているなどという主張を,当然のことながら一蹴しました。

 ところで,本件訴訟には税理士の補佐人が付いており,福岡県にある税理士法人代表社員さんのようで,判決文を読みながら,まさか期限後申告をしてしまった税理士法人代表社員が,自ら補佐人を買って出たわけはないだろうけどなどと,余計なことを考えてしまいました。ふつうに考えれば,青色申告を取り消された原告が,その原因を作った税理士法人との契約を打ち切り,新たに契約した税理士法人代表社員が補佐人に就任したということでしょうか。

 原告は,本件訴訟の敗訴を受けて,期限後申告を隠蔽していた税理士法人に損害賠償請求訴訟を提起することが想定されますが,さて,賠償額はいくらに設定すればいいのかと,悩んでしまいました。青色申告を取り消されている期間に損失が発生していれば,繰り越せなかった損失に係る法人税や法人地方税相当額が損害として認定できそうですが,同期間に課税所得が発生しているようであれば,金銭的な損害はないという判断ができるかもしれないところです。期限内に申告できなかったことは,税理士法人側にとっては債務不履行に該当しますので,2年分の顧問料や申告代理報酬の返還は認めらると考えますが,それ以上の請求となると,難しいかもしれないです。

「会計不正調査報告書を読む」Profession Journal誌に寄稿しました。

 毎月連載記事を書かせてもらっているweb情報誌Profession Journal最新号に「会計不正調査報告書を読む」連載第140回が掲載されました。今回は,「外部機関からの指摘」により不適切な会計処理が発覚して,第三者委員会を設置して調査することになった株式会社東京衡機の調査報告書をとりあげました。

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 事案は単純なものです。2017年3月に発覚した中国子会社での不祥事を受けて,新たに社長に就任した前社長が,創業100周年を迎える2023年に,東京衡機グループの売上100億円,利益5億円を達成することを目指すと宣言し,本業である試験機の製造・販売・保守サービスから離れた,化粧品や雑貨などを日本で調達して中国などへ輸出する事業(商事事業)に乗り出したところから,資金循環取引や介入取引を主導することとなり,利幅の薄い商取引を頻繁に繰り返すことにより,売上高のかさ上げを図ります。監査法人はこうした取引を問題視し,取引形態の改善を求めたり,一部取引の売上計上を認めなかったりしますが,2022年2月,会計監査人の辞任を申し入れます。

 個人的な推測ではありますが,不適切な会計処理を指摘した「外部機関」とは,証券取引等監視委員会で,前任の監査法人の通報を受けて,内偵がされていたのではないかと,思っているところです。

 それはともかく,東京衡機が約5年の間に商事事業で売上を計上した金額は約8,407百万円に達しましたが,利益は35百万円に過ぎませんでした。一方,第三者委員会による調査費用と会計監査人による監査費用は276百万円,さらに商事事業の販売先に対する売掛代金等の未回収債権405百万円に対して貸倒引当金を設定する必要が生じるなど,特別損失は681百万円に達します。不正会計が犯罪であるだけではなく,まったく割に合わない行為であることを如実に示す,いい教科書になっていると思います。

 東京衡機は商事事業からの撤退を公表していますが,本業に回帰して,特設注意市場銘柄指定が解除されるかどうか,新社長の経営手腕が問われることになりそうです。

「租税争訟レポート」をProfession Journal誌に寄稿しました。

 隔月で寄稿させていただいているweb情報誌Profession Journal誌の「租税争訟レポート」連載第66回が,昨日,公開されました。今回とりあげた裁決は,司法書士業を営む個人が,所得税と消費税を免れるために売上を減額して,税理士事務所職員に申告書を作成させた事案で,原処分庁は当然のように重加算税の賦課決定処分を課しましたが,これと不服として審査請求したものです。

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 この司法書士の方,なかなかすごいなぁと思うのは,自分は集計ミスなどをチェックしてもらったつもりだったのに,税理士事務所職員が勝手に売上を減額したものであるから,責任はないという趣旨の答述をしているところです。税理士やその事務所職員が独断で売上を減額して決算を締めるようなことはありえないことでして,濡れ衣を着せられた格好の税理士事務所職員も反論します。いわく,平成14年ころから繰り返し行われてきたとこと,毎年注意していたこと,このような減額をすることの責任は司法書士側にあることを説明してきたこと……。

 国税不服審判所は,当然の余蘊,請求人の審査請求を棄却しました。

 税理士として気になったのは,事務所職員を管理監督する立場の所長である税理士がどのように関与していたのか,裁決書には何も述べられていなかった点です。職員から報告を受けていなかったのか,報告を受けたうえで是認し,または放置していたのか。場合によっては税理士法違反に問われかねない事案であるだけに,このあたりの事実認定について裁決書に記述がないのはなぜなのかと。

 

「会計不正調査報告書を読む」Profession Journal誌に寄稿しました。

 毎月連載させていただいておりますweb情報誌Profession Jouranal最新号が機能公開され,「会計不正調査報告書を読む」連載第139回が掲載されています。今回とりあげたのは,ネットオークション運営会社である株式会社オークファンが設置した特別調査委員会による調査報告書です。

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 同社幹部は,架空循環取引を含む複数の会計不正によって,売上予算を達成しようと画策したわけですが,「外部からの指摘」によって不正が発覚し,2億円近い特別損失を計上するに至った事案です。

 報告書を読んでいてはじめに持った違和感は行為の主体が誰か,記述がないことです。売上を不正に計上して予算達成を図ったのは誰で,予算達成のプレッシャーを与え,不正な売上計上を誘引したのは誰で,こうした不正を防げなっかたのは誰なのか。報告書には「主語」がほとんどありませんでした。

 さらに,特別調査委員会は,代表取締役社長と常勤監査役ヒアリングを実施したことを公開しているのですが,彼らのコメントは,報告書には見当たりません。

 加えて,他の経営陣,とくに社外取締役と社外監査役にはヒアリングすら実施いていないようです。もちろん,ヒアリングを実施しなかった理由についての説明もありません。会計監査人についても同様です。

 こうした結果,原因分析も表層的なものに陥ってしまい,そこから導かれる再発防止策の提言も通り一遍のものであると感じます。ということで,報告書としては,あまり読み応えのないものになってしまっています。

 もちろん,こうした批判は特別調査委員会だけに向けられるものではなく,会社側がこうした報告書を望んだ結果であるということもできます。

 

3.11シンポジウム「震災12年どう教訓を活かすか――関東大震災100年の年に考える」

 3月11日(土)午後,城南信用金庫東京新聞が主催するシンポジウム「震災12年どう教訓を活かすか――関東大震災100年の年に考える」に参加するために,五反田にある城南信用金庫本店まで出かけました。

 主催者によれば応募は400名を超えたそうで,その中から150名招待されたとのことである。あまり大きな告知はなかったはずなのだが,3月11日に,何かをしなければならないという思いを抱く人がとても多いことを知らされる。

 安田菜津紀さんの基調講演。取材中のエピソードと自身の義理の母も震災で亡くなったことなどを何枚もの写真を投影しながら語る。最後のところで,14時46分となり,出席者全員が黙祷。基調講演の後はパネルディスカッション。

 日本で「震災」と呼ばれるのは,関東大震災阪神淡路大震災東日本大震災の3つだけらしい。なるほど。私たち昭和に生まれ,平成を生き延びて令和に至った日本人は,3つのうち2つを経験しているわけだ。シンポジウム全体を通して「復興は道半ば」という言葉が何度も繰り返された。その言葉を聞くたびに,「復興を達成した」というのはどういう状態をいうのだろうと考えてしまう。阪神淡路大震災からはすでに四半世紀以上の歳月が過ぎているが,「復興した」と言えるのだろうか。言えるのだとしたら,それは何をもって「復興した」と定義するのだろうか。どうも「道半ば」という言葉は,「アベノミクスは道半ば」と繰り返していた元首相を思い出してしまい,落ち着かない気分になる。

 パネルディスカッションの終了間際に配布された1枚の印刷物。福島で行われた東日本大震災追悼復興祈念式と3.11シンポジウムの模様とがまとめられている。さすが,東京新聞社が主催しているだけのことはある。

 五反田から事務所までのんびり歩きながら,2011年3月11日にも,事務所から自宅まで歩いて帰ったことを思い出していた。「忘れないためには思い出すこと。思い出したことを誰か話すこと」が大事であると,パネリストの一人が話していた。