「会計不正調査報告書を読む」Profession Journal誌に寄稿しました。

 毎月連載させてもらっているProfession Jouranl誌上の「会計不正調査報告書を読む」が連載第89回めを迎えました。今回とりあげたのは,昨年7月東京証券取引所マザーズ市場に上場したばかりの株式会社MTGが設置した第三者委員会による調査報告書です。筆者自身はよく知りませんが,ReFa,SIXPADというブランドの美容商品が,中国市場で大きな売上をあげて,業績が急拡大している中での上場だったということです。

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 そんなMTGの上海にある子会社の売上をめぐって,会計監査人である有限責任法人トーマツが疑念を投げかけます。売上規模が大きいにもかかわらず,販売単価が高すぎるのではないか。売掛金の回収期間が通常より長いのではないか。こうした疑念を払拭するための監査レビュー手続きとして,トーマツ担当者は上海に赴き,MTGの取引先に対するヒアリングを企図します。するとMTGはそれまでの説明を変更して――その結果,第三者委員会が設置されることになりました。

 MTG経営陣による,上場時やその後に公表した売上高や利益予想を守るための,「とにかく納品さえしてしまえば,売上計上ができる」と言わんばかりの無理な会計処理が,会計監査人の職業的懐疑心に触れ,結果的に過年度損益の修正という市場の信頼を失墜することとなってしまいました。

 こうした事案は少なくないのですが,結局のところ,経営陣に,何のために上場するのかという視点に欠けていることに遠因があるような気がしてなりません。上場することは,市場から資金を調達したり,社会的な信用を得たりするための「手段」に過ぎないはずですが,いつの間にか,上場することが目的となり,あるいは上場を維持することが目的となって,会計不正に手を染めてしまった会社はたくさん存在します。

 今回のMTGについても,市場環境の悪化は誰の目にも明らかだったわけですから,「無理して公表数字を守る」よりは,「早めに予想の修正を行う」ことの方が,市場や投資家の信頼を得るための近道であり,正道であるような気がしてなりません。