「会計不正調査報告書を読む」Profession Journal誌に寄稿しました。

 このところ毎月2本の原稿を掲載していただいているProfession Jurnal誌の最新号で,「会計不正調査報告書を読む」連載第133回が公開されました。2回にわたって,不正な通話を繰り返して,NTTドコモから着信アクセスチャージ料金を詐取していた刑事事件について,二つの調査委員会の調査報告書をとりあげます。

 最初はアルテリア・ネットワークス社の特別調査委員会調査報告書です。同社は丸紅さんが発行済株式の過半数を所有している通信事業者で,従業員一人が,組織犯罪防止法違反の容疑で逮捕され,その後,詐欺利得罪(刑法第246条第2項)の共同正犯(同法第60条)として起訴されました。

 調査の過程で,逮捕された従業員は,同時に逮捕された他社の代表取締役らから,経済的な利益の供与を受けていたことが判明します。

profession-net.com

 アルテリア社外監査役で,弁護士の本村健氏が委員長を務める特別調査委員会は,逮捕・起訴された従業員が、不正な通話の存在を知っていたと断定し得る資料に接していないことから、本調査の限りにおいては、同人が受領した経済的利益について、犯罪報酬の分け前ないし犯罪行為への加功に対する対価であったとは断定できないという一応の判断を示しました。

 逮捕・起訴された従業員は起訴内容について否認を続けており,調査時点では勾留が続いていたこともあって,ヒアリングは弁護士を通してしか行えないなど,かなり難しい調査であったことが推測できます。

 そうした中,特別調査委員会は,アルテリア社従業員と同時に逮捕されたソフィアデジタル株式会社代表取締役ともう1名の取締役の逮捕・起訴容疑について調査をするために,親会社である株式会社ソフィアホールディングスが設置した独立調査査委員会に照会書を送ったり,関係者のヒアリングを共同で実施したりして連携をとりながら,調査を進めたようです。

 架空循環取引がその代表例ですが,多くの企業が会計不正に巻き込まれた場合に,各企業の設置した調査委員会が連携できるかどうかは,守秘義務の問題,お互いに有している不当利得返還請求権や損害賠償請求家との兼ね合いなどから,なかなか難しいところもあるかとは思いますが,今回の事件は,どちらも加害側であったことからか,情報共有ができていたようです。

 次回は,ソフィアホールディングス独立調査委員会調査報告書をとりあげます。